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入魂の酒を醸す人々・・・

蒸し釜の湯気が冷気の中に立ちのぼる。
二月初旬午前六時、気温マイナス18度。まだ明けやらぬ七笑蔵は見る間に熱気に包まれた。
今年初めての「大吟醸」の仕込みが始まる。張りつめた空気。無心と言う言葉が一番近いだろうか・・・・蔵人達からはいつも以上の真剣さが伝わってくる。

柳沢杜氏の無言の指示が蔵の空気を速やかに動かしてゆく。かいがいしく働く蔵人達の無駄のない動き。高揚した頬、吐く息の白さ。蒸し米のあら熱を取り、種付けがされる。見事なほどの連係プレイ。麹室ではもうすでに数人の蔵人が、次の作業を始めていた。

柳沢杜氏が決めたその日は、「大安吉日」。いよいよ今年の大吟醸が搾られる。
蔵人達は朝から身を清め、新しい白衣に着替える。昔からの製法「大吟醸袋しぼり」と、七笑自慢の「槽しぼり(ふなしぼり)」。二十年近く使われてきたという搾り袋は、丹念に手入れをほどこされた愛用品の持つ風格さえ漂わせている。
やがて澄んだ音が、底冷えする蔵の中に響きわたる。ゆっくりと醸されてゆく雫酒の芳香のまろやかさ。
まずは杜氏が利き酒をする。・・・・静かにうなずく、笑みが漏れる。見守る川合常務の元に利き猪口が渡され、蔵人らと共にしぼりたての味を分かち合う。
斗瓶取りは10本。蔵の一番気のいい場所に置かれ、静かに熟成の時を待つ。
「槽しぼり」は頭(かしら)を中心におこなわれる。人一人が立てるほどの深い船の中に、逆立ちをするような姿勢で酒を入れた袋を敷き詰める。一ミリの狂いもないほど正確に、袋取りの酒は船の中に並べられて行く。その手際の良さ美しさ。若い蔵人達は敬意を込めたまなざしで、頭(かしら)の作業を自らの体にたたき込んでゆく。


酒は作り手に似るという・・・・
杜氏の顔を見れば、この蔵の酒の味がわかるのだという。
人間的な魅力と穏やかな包容力を兼ね備えた作り手ならば蔵の気はあがり、酒は見事に微笑んでくれる。


酒造りは「祈り」に似ている・・・
柳沢杜氏と七人の蔵人の魂が融合されて七笑の酒は生まれ出るのだ。
酒の神松尾様への祈り、七笑を支えてきた先人達の祈り、森羅万象、八百万の神々への祈り。そして霊峰木曽御嶽山を初めとする、この地の自然に宿る神々の力と、木曽駒ケ岳から湧き出る伏流水が、そんな入魂の酒造りを支えている。



麹室で頭(かしら)がつぶやいた、「どんなに忙しくても、寒さが厳しくても、蔵に入っているときの方が、不思議に体調が良いんですよ」。
七笑で20数年、酒造りで鍛え抜かれた無駄のない肉体。その木訥な人柄に、信州木曽路で生まれ育ったという、さりげない自負を感ぜずにはいられなかった。
七笑蔵の酒造りは、遅咲きの梅がほころび始める3月末まで休まず続く。